不整地で傾斜のある山道を、重い荷物を背負って、長距離・長時間歩く登山に出かけるとなると、脚が疲れて歩くのが嫌になったり、転んだり、着地時の衝撃の繰り返しにより膝が痛んだり、等々の不安をお持ちの人もいると思います。
そんな時にトレッキングポールを活用することによって、脚にかかる負担を和らげたり、バランスを保ったり、下りで足や膝にかかる衝撃を軽減してくれたりというメリットが得られます。
このように有用な道具であるトレッキングポールについて、今回は、
- どんな時にどの様に役立つか
- 適切な使い方
- 何を重視しどんな観点で選べば良いか
をお話しし、おすすめのトレッキングポールをご紹介いたします。
トレッキングポールとは
トレッキングポールとは、ストックとも呼ばれ、登山やトレッキングなどで使うのに適した杖のことです。
「トレッキングポール」は英語から来た、「ストック」はドイツ語から来た呼び名です。
結局はどちらも同じものを指しています。
登山でトレッキングポールを使う3つのメリット
トレッキングポールは次の様な機能や利点を備えた道具です。
- 体勢を保つ支えになる
- 上りで推進力の補助になる
- 下りで膝や脚にかかる衝撃や負担を軽減する
もしもあなたが野生動物並みの身体能力や強靭な筋力を持っているなら必要無い道具かもしれません。
ですが、体力や筋力は簡単に増強できません。
なので、それを補うために、登山でトレッキングポールを活用することは理にかなっており、即効性が有り、意味が有る対処方法なのです。
1.体勢を保つ支えになる
そもそも登山とは、整地されていない、従って足元が不安定な山道を、重い荷物を背負って歩く活動です。
時には体勢やバランスを崩して転ぶ危険性も大いにあります。
そんな時にトレッキングポールを活用すれば、体勢を保つ支えになってくれるため、安全に歩くことができます。
例えば下の写真の様な渡渉を横切る際、トレッキングポールを使わずに歩くならば、一歩を踏み出す時や片足を滑らせた時など、もう一方の一本の脚だけで体を支えるのは難しいです。
そんな時、トレッキングポールも活用すれば、安定して体を支えることができます。
なぜならば、体を支える箇所が増えるからです。
つまり、トレッキングポールを活用すると、足元が不安定な所でも体勢を安定して支えることができ、安全に登山ができるようになります。
2.上りで推進力の補助になる
険しい山道を上る際には、脚力だけでなく、腕の力の助けも借りて上る方が脚が疲れにくいです。
トレッキングポールを活用することによって、上りで腕の力を推進力に変えることができます。
この様に、トレッキングポールを活用することで脚の疲労を軽減することができます。
3.下りで膝や脚にかかる衝撃や負担を軽減する
下り坂を歩く際は、膝関節に体重の3〜5倍の衝撃が掛かるとも言われています。
トレッキングポールを活用することによって、脚だけでなく腕にも体重を分散させて支えることができます。
この様に、トレッキングポールを活用することで脚の疲労や膝の痛みを軽減することができます。
登山における膝痛の原因、およびトレッキングポールも含めた他の様々な膝痛対策に関してより詳しく知りたい方は こちらの記事 をお読み下さい。
トレッキングポールの使い方
状況別適した長さ
平地では、グリップ部分を握ってトレッキングポールを地面に垂直に突いたとき、肘の角度が直角になる長さが適した長さです。
この長さが基準になります。
上りでは、トレッキングポールを突く位置は足元よりも高い所にあるので、長さを短くします。
下りでは、トレッキングポールを突く位置は足元よりも低い所にあるので、長さを長くします。
ゴムキャップを付けるべき場面
トレッキングポールの先端部分は、購入時はゴム製のキャップで覆われているはずです。
このゴムキャップは、通常時は付けたままで使います。
と言うのは、例えば木道などを歩く場合には登山道を保護するためです。
また、持ち運ぶ時や収納時は周囲を傷付けないようにするためです。
一方、岩場や雪山のようなゴムキャップでは滑りやすい所では外して使います。
これは、安全のためです。
また、ぬかるみや富士山の砂走りのような先端が埋もれてゴムキャップが外れやすい所でも外して使います。
こちらは、紛失および山に異物を残置することを避けるためです。
雪山では専用のバスケットを使用
バスケットとは、ポールの先端付近に付いていて、地面や岩の隙間などにそれ以上突き刺さることを防ぐストッパーの働きをするパーツのことです。
通常時は小さめの方が扱いやすいですが、雪上で使う時は、軟らかい雪面に沈み込んでしまわないように、大きめのスノーバスケットに付け替えた方が有効です。
例えば雪上歩行をする際、軟らかい雪面に足が沈み込んでしまわないように、足にわかんやスノーシューを付けるのと同じことです。
なので、雪上で使う時は大きめのスノーバスケットに付け替えて使用します。
2本ペアで使うか1本だけで使うか
使う本数は、あなたが楽しく安全に行動できるという観点で自由に決めて構いません。
「このような場合は2本使わねばならない」みたいなルールはありません。
例えば日常生活において、家の中では杖を使わないが外出時は杖を使うご年配の人もいます。
これと同様で、状況に応じて使い分けて構わないのです。
と言われても、ある程度経験が無いと見当がつかないと思います。
そこで、参考になりそうな状況の目安をここでは紹介します。
本格登山や不整地を歩く時は2本使い
「登山でトレッキングポールを使う3つのメリット」の項でお話しした通り、トレッキングポールは、以下の様な場面で効果をもたらしてくれます。
場面 | 効果 |
---|---|
足元が不安定な不整地 | 体勢を保つ |
上りで体を持ち上げるのが辛い | 推進力を増加 |
勢いが付く下りで体重を脚だけで受け止めきれない | 脚への衝撃や負担を軽減 |
つまり、傾斜のある山道を上り下りする本格登山では2本使いがおすすめです。
また、さほど起伏がなくても、足元が不安定な不整地を歩く場合は、2本使いの方が体勢を保ちやすいです。
起伏が少なく整備された遊歩道の散策には1本使い
本格登山や不整地を歩く場合ほど難易度や危険度が高くない、起伏が少なく整備された遊歩道の散策には1本だけでも十分間に合います。
もう一方の手にカメラを持って、写真を撮りながらのんびり歩くのも楽しいものです。
トレッキングポールの選び方
グリップの形状
トレッキングポールのグリップの形状は、I字型とT字型の2種類があります。
使う場面によって、適したグリップ形状が異なります。
あなたが計画している登山に適したグリップ形状のトレッキングポールを選びましょう。
I字型
グリップの形状が、スキーのストックのようなストレートのI字型になっている物です。
起伏の大きい山道を歩くのに適しています。
I字型は本格的な登山やロングトレイルにおすすめです。
T字型
グリップの形状が、ステッキのようなT字型になっている物です。
比較的平坦な道を歩くのに適しています。
T字型は起伏がゆるやかなコースの散策やハイキングにおすすめです。
素材
トレッキングポールに使われる素材は、アルミとカーボンの2種類があります。
素材によって、特性や重さや価格が異なります。
あなたの体力やスキルと、予算とを照らし合わせて選ぶと良いでしょう。
アルミ | カーボン | |
---|---|---|
過度な力が加わると | 変形する(曲がる、凹む) | 折れる |
重さ | カーボンよりも重い | アルミよりも軽い |
価格 | カーボンよりも安い | アルミよりも高い |
アルミ
価格が比較的安いことがアルミの一番の魅力と言えます。
過度な力が加わっても折れてしまう訳ではなく、少々曲がったり凹んだりしても使うことができます。
最初は扱いに慣れる目的でアルミを選択するのは賢い考え方かもしれません。
ですが、体力に自身がない人には長時間の登山では重さが負担になるかもしれません。
カーボン
衝撃吸収性に優れることと、重さが軽いことがカーボンのメリットです。
一方で価格が高く、また、過度な力が加わると折れて使えなくなってしまうことがカーボンの難点です。
収納方式
トレッキングポールは、使う時は伸ばし、使わない時は短くコンパクトに収納できる仕様になっています。
コンパクトにできない物は、登山用ではありませんので、選択肢から外します。
収納方式には折りたたみ式と伸縮式の2種類があります。
収納方式が異なることによって使い勝手も異なります。
折りたたみ式
折りたたみ式は、テントのポールの様に、中にコードが通って繋がっているシャフトを接続部分で分割して折りたたむことによって短く収納することができます。
収納時は、次に紹介する伸縮式よりも短くでき、バックパックの中に収まってしまう程の長さになることが最大の利点です。
また、伸縮式と比べて軽いことも利点の一つです。
収納時の長さは短い一方で、まとまりはそのままでは良くないかもしれないことが難点です。
また、使用時の長さ調節範囲が伸縮式と比べて狭いため、傾斜が急な道では適した長さに合わせづらいかもしれません。
伸縮式
伸縮式は、ラジオのロッドアンテナの様に太さが異なるシャフトが組み合わさってできています。
収納時は、内側の細いシャフトを外側の太いシャフトの内部に挿入することによって短く収納することができます。
使用時は、内側の細いシャフトを外側の太いシャフトの内部から引き出して、長さを固定して使用します。
大幅な、そしてきめ細かい長さ調節が可能で、上りも下りも平坦な道も様々な場面で活用できることが利点です。
先に紹介した折りたたみ式に比べて強度面に優れ、メンテナンスしやすい利点があります。
ですが、折りたたみ式に比べて収納サイズが長く、一番短くしてもバックパックの中には収まりきらず、外にくくり付けることになるでしょう。
シャフトのロック方式
シャフトの長さを調節して固定する際のロック方式にはレバー式、スクリュー式、ピンロック式の3つがあります。
それぞれで使い勝手や特徴に違いがあります。
レバー式
レバーを開いてロックを解除し、適した長さに調節したらレバーを閉じてロックします。
トレッキングポールにおいては比較的新しい固定方式です。
最近はこちらが主流になっているようです。
力が弱い人や手袋をはめたままでもロックの解除/固定がワンタッチで確実にできるところが利点です。
雪山で使っても、凍結して長さ調節できなくなる事態に陥りにくいです。
一方で、レバーの突起部分が何かに引っ掛かりやすいのが難点です。
レバーを閉じた時の締め付け強度の調節を事前にしておく必要がありますが、一度調節すれば調節しなおす機会はあまりありません。
予算内に収まるものが見つかるなら、この方式のものがおすすめです。
スクリュー式
ネジを緩める向きにシャフトを回してロックを解除し、適した長さに調節したら反対向きに回してロックします。
以前からよく見られた方式で、比較的安価なことが利点です。
ですが、回す力が弱い人だと、緩めづらいことや、固定が甘く地面に突いた衝撃で長さが縮んでしまいかねないことが欠点の一つです。
逆に、強く締め過ぎると壊れてしまうこともあります。
締める時は手袋を外して、素手で適切な力加減で締めるようにして下さい。
また、雪山で使う場合、付着した雪により凍結すると長さ調節できなくなってしまうこともあります。
機能性や実用性においてレバー式よりも劣るため、あまりお勧めできません。
ピンロック式
シャフトから突き出したボタンがストッパーとなる固定方法です。
ボタンを押し込むと、ロックが解除され、長さを変えることができます。
軽量でコンパクトに収納できるのが利点です。
先の2つと比べて強度が低いことや、長さ調節の幅やきめ細かさの点で劣るのが難点です。
アンダーグリップの有無
アンダーグリップとは、トレッキングポールを通常時に握る位置よりも下側をカバーしている滑り止め素材のことです。
トレッキングポールを地面に突く位置は、進行方向の少し先です。
トレッキングポールの長さは、進む道の傾斜に合わせて、上りでは少し短めに、下りでは少し長めに調節して使います。
なぜならば、そうしないとトレッキングポールを上手に活用できないからです。
ところで、短い区間で傾斜やアップダウンが頻繁に変わる道で、その都度立ち止まって長さ調節をしていると、行程がなかなか進みません。
そんな時に、アンダーリップがあると、トレッキングポールの長さはそのままで、握る位置を変えれば実用長を変えることができるため、長さを調節する手間を省くことができます。
あると便利な仕様です。
スノーバスケット装着の可否
ポールの先端付近に取り付けるバスケットは、通常時は小さめの方を使用します。
理由はこの程度の大きさで十分機能し、邪魔になりにくいからです。
ですが、雪上で使う時は、大きめのスノーバスケットに付け替えた方が有効です。
なぜならば、バスケットがある程度大きくないと、柔らかい雪面深くまでポールが突き刺さってしまい、用をなさないからです。
なので、雪上で使う時は大きめのスノーバスケットに付け替えて使用します。
ところで、スノーバスケットが最初から付属品に含まれていたり、別売品を入手して付け替えられるモデルもあれば、スノーバスケットが装着できないモデルもあります。
雪山登山やスノーハイキングにも行く等、一年を通して使うことを想定しているならば、スノーバスケットに付け替えられるものがおすすめです。
アンチショック機能の有無
アンチショック機能とは、トレッキングポールを地面に突いた時の衝撃をシャフトに内蔵されたバネで吸収する機能のことです。
二本足で歩く人間には、着地時の衝撃を吸収する機能は、足には備わっていますが、手には備わっていません。
トレッキングポールを使って歩行動作の負担を手にも分散する場合は、着地時の衝撃を吸収する機能(アンチショック機能)がトレッキングポールに備わっていると、身体への負担を軽減できるという利点があります。
一方で、アンチショック機能が付加されたトレッキングポールは、構造が複雑になり、その分重量が増し、価格が高くなるという難点があります。
トレッキングポールのおすすめ6選
DABADA(ダバダ):トレッキングポール アルミ製
コスパを優先するならコレがおすすめです。
アルミ製、スクリュー式3段伸縮式で、アンチショック機能付きです。
収納時は最短で56.5cmまで縮めることができ、使用時は最長で120cmまで伸ばすことができます。
DABADA(ダバダ):トレッキングポール カーボン製
アルミ製ほどお安くはありませんが、軽いカーボン製でコスパの良い物をご希望ならコレがおすすめです。
スクリュー式3段伸縮式で、アンチショック機能付きです。
収納時は最短で61cmまで縮めることができ、使用時は最長で125cmまで伸ばすことができます。
Alpin Loacker:トレッキングポール アルミ製
収納時のコンパクトさを優先し、比較的値段が安い物をお考えなら、折りたたみ式でアルミ製のコチラがおすすめです。
折りたたみ時の長さは33cm、使用時は100〜120cmの範囲で長さ調節をすることができます。
長さ調節のロック方法は確実性の高いレバー式です。
アンダーグリップ付きで、スノーバスケットも付属しています。
Alpin Loacker:トレッキングポール カーボン製
収納時のコンパクトさを優先し、比較的軽い物をお考えなら、折りたたみ式でカーボン製のコチラがおすすめです。
折りたたみ時の長さは33cm、使用時は100〜120cmの範囲で長さ調節をすることができます。
長さ調節のロック方法は確実性の高いレバー式です。
アンダーグリップ付きで、スノーバスケットも付属しています。
レキ(LEKI):ジャーニーライト
実績が豊富な有名ブランド品をご希望ならば、コレがおすすめです。
アルミ製で、レキ製品の中ではコスパに優れた入門者向けのモデルです。
レバー式3段伸縮式です。
収納時は最短で66cmまで縮めることができ、使用時は最長で135cmまで伸ばすことができます。
キャプテンスタッグ(CAPTAIN STAG):トレッキングステッキ Tグリップ
山麓や傾斜が緩やかな道をのんびり散策する際使用するのに適したT字型グリップの物をお望みならばコレがおすすめです。
スクリュー式の伸縮式で、3段伸縮式と4段伸縮式の2つのモデルがあります。
どちらもアンチショック機能付きです。
3段伸縮式は、収納時は最短で61cmまで縮めることができ、使用時は最長で120cmまで伸ばすことができます。
4段伸縮式は、収納時は最短で55cmまで縮めることができ、使用時は最長で120cmまで伸ばすことができます。
4段伸縮式は、3段伸縮式に比べて、収納時は短くできる一方で、重量は若干重くなります。
どちらも1本売りです。左右ペアで使いたい場合は2本ご購入下さい。
3段式
4段式
まとめ
トレッキングポールは膝や脚や身体にかかる負担を軽減してくれ、転ばぬ先の杖としても重宝します。
あなたの手足の代わりとなって存分に活躍してくれる、使い勝手の良いトレッキングポールを持って、あなたも安全に快適に山を楽しんで下さい。