冬の登山は冬ならではの魅力や楽しみがあります。
しかしながら、冬山の魅力や楽しみをもたらしてくれる雪や低温などは、反面、リスクにもなりかねません。
それらのリスクを避けるためには、登山靴を適切に選ぶ必要があります。
今回は、初心者向けに、冬の登山に適した靴の選び方をお話しすると共におすすめを紹介いたします。
目次
冬山登山で専用の靴を履く必要性とメリット
そもそも登山とは、
- 街中の様には整備されていない足元の悪い所を歩く
- 傾斜のある所を歩く
- 普段よりも重い荷物を背負って歩く
- 普段よりも長時間歩く
↓ ↓ ↓ - 足や靴に大きな負担が掛かる
というアウトドアの活動です。
そして、冬に登山に行くということは、加えて、
- 寒い
- 雪がある
ということも考慮する必要があります。
このような活動をする際に履く靴は、残念ながら、普段履いているスニーカーや運動靴はおろか、夏専用の登山靴でも間に合いません。
なぜならば、使用環境が過酷なため、まともに歩けなかったり、靴が壊れたり、足を痛めたり、寒さ・冷たさに耐えきれなかったりするからです。
なので、冬に登山をするという用途に耐え得る十分な仕様や機能や性能を備えた靴を使う必要があります。
例えば、冬山登山に適した靴は、冬山の寒さに耐えられるだけの保温性や断熱性を備えています。
なので、寒さや冷えや凍傷からあなたの足を守ってくれます。
また、本格的な冬山登山に使われる靴は、アイゼン(クランポン)と言う装備をソールに装着するのに適した仕様になっています。
ちなみにアイゼンとは、それを靴のソールに装着することで雪の上を歩く際の滑り止めとなる、雪面に突き刺さる金属製の爪が備わった装備です。
出典:GRIVEL公式
なので、滑りやすい雪や氷の上でも安全に確実に歩くことができます。
つまり、冬山登山専用の靴を履くことによって、あなたは安全に快適に冬の登山を楽しむことができるのです。
冬用登山靴の選び方
ハイカットの靴を選ぶ
登山靴は、履き口の高さによってローカットと、ミドルカットと、ハイカットの3つのタイプに分類することができます。
履き口の高さが、ローカットではくるぶしの下、ミドルカットではくるぶしの上、ハイカットではくるぶしより更に上に来ます。
出典:MAMMUT公式
冬山登山で使うならば、ハイカットの靴が適しています。
なぜならば、足首よりも上の方まで広く覆われるため、ハイカットの方が暖かいです。
また、雪に足が埋もれても、ハイカットなら雪が中に入って来にくいです。
また、不安定な足場に足が乗ってしまった際や、荷物が重いことが原因で、不意に足首をくじきそうになった場合に、ハイカットなら足首がホールドされ捻挫が起こりにくいです。
なので、冬山登山で使う場合はハイカットの靴を選びます。
ハイカットの靴よりも更に上までを覆い、また、履き口を閉じることができる、いわゆるゲイター一体型の靴もあります。
この様な靴だと、雪が中に更に入って来にくく、また、中の温かさを逃がしにくくなります。
ですが、裾が二重になっているオーバーパンツを履いたり、ロングタイプのスパッツ(ゲイター)を一緒に着けたりすることで対応することも可能です。
ですので、ここまでの仕様は必ずしも備わっていなくて良く、他との兼ね合いで決めて構いません。
保温性・断熱性をチェック
山は下界よりも標高が高いため気温も低いです。
その様な所へ、寒い冬に、更には雪があることも想定して出掛けるのですから、靴の保温性・断熱性も重要です。
とは言え、初冬や早春の低山(標高1,000m程度以下)登山や雪原のスノーハイクの様に寒さが比較的厳しくない場合から、厳冬期に高山(こうざん、標高2,500m超)を登る場合まで、行先や時期によって気温も異なります。
つまり、用途によって必要な保温性・断熱性の程度も異なる訳です。
そして、保温性・断熱性に優れる登山靴程、価格も高くなりがちです。
保温性の高い靴下を履いたり、断熱性の高いインソール(中敷き)に入れ替えたりして、靴の保温性・断熱性を補う方法もあります。
なので、登山靴に備わっている保温性・断熱性だけで全てを解決しなくても構いません。
行先や時期による気温に対して耐えられるだけの保温性・断熱性がトータルで得られるように靴を選びます。
ソールの溝が深いことを確認
滑りやすい所を歩く際にも十分なグリップ性能が得られるように、登山に適した靴のソールは溝が深く作られています。
なので、ソールの溝が深いことも確認します。
ソールの硬さをチェック
低山(標高1,000m程度以下)に行くならば程々の硬さで構いませんが、本格的な雪山登山に行くならばソールが硬い必要もあります。
どれくらいの硬さかと言うと、カチカチに固まった雪よりも硬い必要があります。
なぜならば、雪の上を歩く歩行技術の一つに、雪面にソールを蹴り込んで凹みを作り、その凹みを足掛かりにして滑らないように進んで行く歩き方があります。
ちなみにこの歩き方のことを、「キックステップ」と言います。
それを可能にするためには、カチカチに固まった雪よりもソールが硬い必要があります。
手の力では曲がらないのはもちろんのこと、履いた状態で背伸びをするようにかかとを浮かせて体重を掛けてもビクともしない程の硬さが目安です。
ソールのコバをチェック
コバとは、ソールの周辺部分を指す呼び名です。
ソールのコバのかかと側およびつま先側に、アイゼンを装着するための凹凸があるかどうかを確認します。
なぜならば、ソールのコバのかかと側やつま先側の形状によって、装着可能なアイゼンが異なり、それに伴い行ける雪山のレベルも異なるからです。
靴にアイゼンを装着する方式は3つあります。
一つ目は、ストラップを使ってソールにくくり付けるストラップ式です。
出典:GRIVEL公式
二つ目は、ソールのコバのかかと側に設けられた凹凸にアイゼンをかみ合わせるセミワンタッチ式です。
出典:GRIVEL公式
三つ目は、ソールのコバのかかと側とつま先側に設けられた凹凸の両方にアイゼンをかみ合わせるワンタッチ式です。
出典:GRIVEL公式
ストラップ式アイゼンは、極端に言うと、どんな靴にでも装着可能です。
その代わり、(外れることは無いとしても)微妙にグラ付くこともあります。
なので、そうなっても支障のない程度の簡単な雪山に限って使用可能です。
例えば、冬でも雪の少ない低山(標高1,000m程度以下)や傾斜が緩やかな所へスノーハイクに行く程度なら、あるいは、夏に雪渓や残雪の上を歩く程度なら、ストラップ式アイゼン、あるいはアイゼンよりも爪の数が少ない軽アイゼンで対応可能です。
それに対して、セミワンタッチ式アイゼンはソールのコバの少なくともかかと側に、ワンタッチ式アイゼンはソールのコバのかかと側とつま先側の両方に、アイゼンをかみ合わせるための凹凸がある靴にしか装着することができません。
その代わり、(靴とアイゼンの相性が悪く、上手くかみ合わないこともあり得ますが、)靴とアイゼンとの適切な組合せを選べば、アイゼンを靴にしっかりと固定することができます。
なので、本格的な雪山登山のような厳しい条件でも十分に使用可能です。
例えば、厳冬期や残雪期にアルプスに登るならば、靴にアイゼンをしっかりと固定できることを前提にした仕様の靴を選ぶ必要があります。
なので、本格的な雪山登山に行くならば、ソールのコバのかかと側、またはかかと側とつま先側の両方に、アイゼンを装着するための凹凸がある靴を選びます。
※ ソールのコバのかかと側およびつま先側の凹凸の有無に依るアイゼン装着の可否の表
ストラップ式 | セミワンタッチ式 | ワンタッチ式 | |
---|---|---|---|
無し | ○ | × | × |
かかと側のみ有り | ○ | × | × |
かかと側もつま先側も両方有り | ○ | ○ | ○ |
セミワンタッチ式とワンタッチ式のアイゼンでは、以下の様な違いがあります。
セミワンタッチ式はソールのかかと側さえアイゼンを装着することのできる形状になっていれば装着可能で、つま先側の形状に左右されません。
それだけ、装着できる靴に対する自由度が高いということです。
それ対して、ワンタッチ式はソールのかかと側もつま先側もアイゼンを装着することのできる形状になっていないと装着できません。
また、靴との相性が悪いと装着できないこともあります。
ですが、ワンタッチ式は、靴との相性が良ければ最もしっかりと固定することができます。
装着に要する手間や時間で比べると、ワンタッチ式の方が比較的簡単で、セミワンタッチ式の方が比較的面倒です。
アッパーの素材を選ぶ
本格登山に行くならば、アッパーに使われる素材としては、防水透湿性素材が組み込まれていることを前提に、化繊か、革か、それらの組合せの中から選ぶのが良いです。
化繊は比較的軽く、柔らかく、また、価格も低めです。
軽くて柔らかいため、足を動かしやすいという利点が得られます。
革は比較的暖かく耐久性に優れる一方で、重いです。
靴に限らず登山用品は何でも軽いに越したことはありませんが、雪山で使う登山靴は、重いことにより得られる利点もあります。
それは、先程紹介した「キックステップ」という(雪面に靴を蹴り込んで凹みを作り、その凹みを足掛かりにして滑らないように進む)歩き方をする際に、靴を雪面にしっかりと蹴り込めることです。
初心者には、足首が曲がる辺りは柔らかい化繊が使われ、他は暖かく耐久性に優れた革が使われた物が最適かもしれません。
目立つ色が使われている靴を選ぶ
冬に登山をするとなると、雪が舞い視界が悪い中を歩くこともあり得ます。
そんな時に仲間とはぐれないように、靴の一部分でも良いので、視認性の良い色が使われている靴を選ぶと効果ありです。
あなたの足にフィットする
どれだけ高機能高性能の靴であっても、あなたの足にフィットしなければ論外です。
登山靴を履く時に一緒に使う、冬用の厚手の靴下を履いた足にフィットする登山靴を選びます。
登山靴の付属の物とは別のインソールを使いたいのなら、それもセットにして選びます。
合わせてすべきこと
アイゼンも合わせて選ぶ
冬用登山靴とアイゼンはセットだと考えるべきです。
なぜならば、靴にアイゼンをきちんと装着できなければ、アイゼンが、結局、用を為さないからです。
アイゼンを着けなければ歩けないようなツルツルの雪面の上を、アイゼン無しで歩くことも、アイゼンが簡単に外れてしまうことも、どちらも危険です。
なので、あなたの足に合う靴と、その靴に合うアイゼンをセットで選びます。
この組合せを見付けやすくするには、仮に靴のソールのつま先側もアイゼンを装着するための凹みがあったとしても、セミワンタッチ式のアイゼンの中から探すのが良いかもしれません。
ロングスパッツも一緒に購入
靴の中に雪が入らないように、また、保温効果を高めるために、足首周りよりも下から膝下までを覆うロングタイプのスパッツ(ゲイター)も着用することをお勧めします。
防水透湿性素材が使われ、アイゼンで過って擦っても破れにくい厚地の物を選びます。
また、靴と同様に、視認性の良い色が使われている物がおすすめです。
冬用登山靴おすすめ5選
スノーハイクに行く人向け
Putu:ハイカット スノーブーツ
内側は起毛素材で保温性に優れています。
防水加工もされています。
ソールにそれなりの硬さやグリップ性能があります。
ストラップ式のアイゼンしか装着できません。
Amazonの売れ筋ランキング上位の人気商品で、低価格です。
雪国での街使いや、冬に雪国へ旅行に行く際にも使用可能です。
本格登山には向きません。
★男女兼用
冬の低山を登る人向け
スポルティバ:トランゴタワーGTX
冬の低山(標高1,000m程度以下)や残雪期や無雪期の高山(こうざん、標高2,500m超)登山にも使うことができます。
アッパー素材には防水透湿性素材が組み込まれた化繊がメインに使われています。
セミワンタッチ式のアイゼンも装着可能です。
厳冬期に耐えられる程の保温性能はありませんので、用途によっては靴下などで保温性能を補う必要も生じます。
★男性用
★女性用
マムート:ケント ガイド ハイ ゴアテックス
冬の低山(標高1,000m程度以下)や残雪期や無雪期の高山(こうざん、標高2,500m超)登山にも使うことができます。
アッパー素材には防水透湿性素材が組み込まれた革がメインに使われています。
セミワンタッチ式のアイゼンも装着可能です。
厳冬期に耐えられる程の保温性能はありませんので、用途によっては靴下などで保温性能を補う必要も生じます。
★男性用
★女性用
この商品に関して詳しく知りたい方は、詳細をまとめた こちらの記事 をお読み下さい。
厳冬期登山に行く人向け
ローバー:マウンテンエキスパート GTX エボ
厳冬期の雪山登山に耐えられる保温性能を備えています。
アッパー素材には防水透湿性素材が組み込まれた革がメインに使われています。
足首を動かしやすい設計で冬山入門の方にもお薦めです。
ワンタッチ式のアイゼンも装着可能です。
★男性用
★女性用
スポルティバ:ネパール エボ GTX
厳冬期の雪山登山に耐えられる保温性能を備えた上にゲイター一体型で更に暖かです。
アッパー素材には防水透湿性素材が組み込まれた革がメインに使われています。
足首をホールドしつつも可動域が広い設計になっています。
ワンタッチ式のアイゼンも装着可能です。
★男女兼用
冬専用の登山靴を履いて安全で快適な冬山登山を
下界での活動よりも危険が伴う登山を冬にするとなると、低温や雪などによって危険性はさらに高まります。
しかし、それらに対処できるだけの十分な装備を整え、天候に恵まれれば、冬山だからこその素晴らしい体験をすることができます。
その装備の要(かなめ)とも言えるのが登山靴です。
あなたが行こうとしている登山で使うのに十分な仕様や機能や性能を備えた登山靴を履いて、安全に快適に冬の登山を楽しんで下さい。
もっと広く登山靴全般について詳しく知りたい方は こちらの記事 をお読み下さい。